#2 独立前夜 合格発表の日

独立前夜

中小企業診断士の2次試験は、「自己採点」が全くできない特殊な試験である。

公式の解答も公開されず、点数も分からない(後に得点開示ができるようになるが、それはまだ先の話)。

そのため、2次試験後は、合格発表までただ待つしかできないという21世紀とは思えない焦らし設計である。

落ちた時に備えて、すぐに勉強を再開するというモチベーション鉄人ではもちろんない私は、独立を決意する昨日までほぼモラトリアム状態で、だらだらとした日々を送っていた。

診断士取得で転職して、今より年収が上がれば全部OK。

とにかく「平均的」な年収が頂けるならそれで大満足。

なんて考えていたので、独立なんてまるで想定していなかった。

何をしてよいか分からないので、図書館に行き「独立」「開業」という本を片っ端からむさぼった。

そして5~6冊を読んだところで悟る。

うん。無理。そもそもこれできる人いるの?

どの本も1行でまとめると

「自分の強みを活かした専門性に絞り込み、コンテンツを作り、営業しろ」

である。

自分の強み?

専門性?

強みや専門性が無いから中小企業診断士取得を目指したんじゃろがい

次に「強みを見つける」方法という本をむさぼる

「今のお客様にヒントがある」

→今お客様ゼロなんですけど

「企業の歴史にヒントがある」

→これから開業するんですけど

「他人にはない強みをみつけろ」

→だからその方法を探してるんだってば

「弱みはつまり強み」

→哲学?

背中が熱い。背筋がどんどん曲がってくる。USPという単語だけはもう二度と見たくない

中小企業診断士は経営コンサルタント。顧客になるのは中小企業の社長。

このターゲットに刺さる強みなんて一切ない。

そして極めつけが

「強みを見つけるには自分の経験の棚卸」

これが一番きつかった。昨日の転職エージェントの面談で言われた言葉がよみがえる

ひとしきり私が自分の経歴を披露した後、担当者は、目をつむりながら答えた

「とてもユニークな経歴だとは思うんです。ですが、『一般的に』正社員での勤務以外はキャリアとしては見られないんです。せめて契約社員であれば、、、」

私は20代のほぼすべてをミュージシャンとして過ごした。

ミュージシャンと言えば聞こえはいいが、ほとんどが音響のバイトや、当時増加しつつあったスマホ用のゲーム音楽の作曲を下請けで受けていた程度である。

もちろんすべて立派な仕事だと思う。しかし『一般的に』これはアルバイトでしかないのだ。

昨日の言葉をそのまま当てはめるなら、『一般的に』私は棚卸すものなど何もない人生を歩んできたことになる。

しいて言えば、22歳~24歳までの2年間の商社勤務と、現在の30歳~33歳までの3年間のメーカー勤務。こんな脆弱な経験で中小企業の社長に説得力がある助言などできるわけない。

これでは、中小企業診断士に合格したとしても、、、

歯が痛い。相当歯を食いしばっていたのだろう

自分は「中小企業診断士」に誰一人会ったことが無い

本当はそんなもの存在しないのではないか

英検1級みたいなもので、「この人英語詳しいですよ」という証明にはなっても、「英検1級」という仕事はない。そんな類な物なんじゃないのか

ぐるぐると思考が回りながら、それでも合格発表日がやってくる。

受かっていなかったら、この1か月の行動も全部無駄になる。

というかこんな何にもない自分が受かるはずがない。何を期待してるんだ?

ストレートの合格率なんて4%(1次試験合格率20%×2次試験合格率20%=4%)

どうしてこれに受かると考えていたのだろう。

これが受かるような男なら、ここまで人生煮詰まってないだろう。

合格発表当日の昼休み

パソコンで番号を探す。

手が震える。番号もよく見えない。

自分の番号が近づく。

ゆっくりと目を上から下へ走らせる。テレビとかで見るあんな光景だ。

私はずっと受験から逃げてきた。高校も大学も推薦、就職だって内定をくれたところにいっただけ。

こんな人生をかけて番号を探すのは初めてだ。

自分の番号の手前まできた。

そして

次の行に私の番号はなかった

何度見ても、私の番号の前とそして私の番号を抜かした番号がその下に表示されている。

そんなうまくはいかないわな

これが一番初めに浮かんだ気持ちだった。

そんな気はしていた。事例Ⅲは丸々1問ほぼ白紙で書いている。これで受かる方が奇跡だ。

不思議とポジティブに「残そう」と思えた。

これを発信しよう。そこから始まるんだ。1年独立は遅れても、発信を先行させよう。

「Ctrl + F」

画面検索の窓を開き、自分の番号を入力する。

「該当データなし」と表示されるはずだ。

これをスクショしてブログに上げよう。そしてここからもう1年頑張ろう。

どうせまだ自分の強みすら見つかっていないのだから

えいっとエンターを押す

「該当データなし」が出ない

さっき何回も見たはずの画面に自分の番号が黄色くハイライトされている

え?

ええ?

ええええええええええええ?

あった!!私の番号が確かにそこにあった。

なぜ?状況が全く理解できない。何度も確認したはずなのに。

理解するまでにかなりの時間がかかった。

そして見えた

横かいっ!!! 

声をだして叫んでしまった。

受験番号は「横並び」で表示されていたのだ。

こういうのって縦って相場がきまっているだろう。

受験自体が初めてな私は勝手にそう思い込んでいた。

一度落胆しているだけに感情のアップダウンについていけない。

そして自分の目が信用できない。

すぐに妻に電話した。

妻にも確認してもらい、本当にあった。

本日もお読みいただきありがとうございました。中小企業診断士の高島でございます。

明日が合格発表日ということで急遽書かせていただきました。

しかし、発表順が、横という想定はしていなかったです。

画面を見ている自分は鮮明に思い出せるのですが、午後何をしたか、どうやって家に帰ったかすら覚えていません。

そして当時は本当に中小企業診断士に知り合う機会がありませんでした。今はSNSを探せばいくらでも見つかりますし、交流することもできますが、当時は本当に存在するのか?なんて失礼なことを考えていました笑

強みを見つける これは本当に苦労しますよね。でもその後自分自身には強みがあったことが分かります。動き出してみて初めて分かる自分の強み。いずれそんな話もしていきたいと思います。

次回は、合格後~実務補習、実務従事~登録までのことを書きたいと思います。

今日の投稿も何かご参考になれば幸いです。ありがとうございました。

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